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2010年5月20日 (木)

『許されざる者』

クリント・イーストウッドが5月31日で80歳を迎えるということで、
NHKの衛星放送やWOWOWが特集をやっている。

西部劇大好きなイーストウッドファンが、
『許されざる者』をベスト1にあげていたので、勉学のために見ることにする。
西部劇は子どもの頃、テレビで見ていたくらいで(ローハイドとか)
あとは、いつだったかこどもの頃の大晦日に、
親が正月の買い物をしている間、妹と2人映画館に放り込まれて、
そこで『アラモ』を見た位しか記憶にない。
こどもが見ても問題なさそうな映画は、それくらいだと親が判断したのだが、
西部劇のドンパチは、ファンタジーだとでも思ったのだろうか。
小学生のこどもにとっては結構な衝撃で、でもジョン・ウエインより
リチャード・ウイドマークの方が印象に残ったのはなぜなんだろう。
その後、イーストウッドが注目されたマカロニウエスタンも全然興味はなく、
その意味では、彼をちゃんと追いかけているとは言い難いのだけど
まあ、『ローハイド』はずーっと見ていたし、ロディのファンでもあったから
イーストウッドとの付き合いは長い。

『許されざる者』には、さまざまな許されざる者が出てくる。
ビッグ・ウイスキーという町の保安官は分かりやすい悪党だが
(それにしても、ジーン・ハックマンという俳優は悪役をやらせるとピカ一である)
ウソに塗り固められた自伝を書こうとやってくるイングリッシュ・ボブだって、
ほとんど自分の実績のために、それを執筆しようとしているライターだって、
娼婦館のオーナーだって、素朴な町の連中だって、
イーストウッド演じるウイル・マニーをそそのかす
スコフィールド・キッドだって同等である。
ウイル・マニーが復讐の大義名分に掲げた
傷つけられた娼婦とその仲間たちさえ、
決して後味がよいとはいえない復讐に、
他人を巻き込んだという意味で、許されがたいといえるだろう。
この映画が高く評価されたのは、そのように簡単には善悪をつけられない
のが現実なのだということを描いて「最後の西部劇」と言われたからだと思う。

娼婦という、いわば社会の底辺の人間に対するイーストウッドの
暖かいまなざしもさることながら、ここで印象に残るのは、
町の住民の流れ者に対する反応である。
この町では、よそ者は銃の携帯が許されない。
もちろん住民は銃を持っている。
自分たちが武器を持っているにもかかわらず、
武器を持っているかもしれないよそ者に、異常な恐怖を抱くのは
恐怖心には、さしたる根拠があるわけでなく、
むしろ自らによって掻きたてられるものであって、
それは相手より優位に立たなければ決して解消できないが、
仮に優位に立ったとしても、限りなく生み出され続けるということでもある。
このあたりは、なんだか自分のことを棚に上げて、他国の武力制限に腐心し、
それでいて暴力(戦争)に突入するアメリカ自身を連想させる。
この映画は1992年公開だが、おそらく湾岸戦争も意識されているだろう。

このところメディアで報じられている普天間基地の移設問題の根っこにも、
この町の連中と同じような反応があるのではないか。
メディアの報じ方を見ていると、この問題は安全保障上の問題というより、
実際にはたぶん、経済的な利害関係の綱引きであって、
安全保障論議はどうでもいいみたいな扱いである。
それは安全保障論議というものが、実はほとんどビッグ・ウイスキーの
町の住民意識以上にはなり得ないからじゃないだろうか。

人間や社会は、少しくらい時代が変わっても、そう簡単には変わらない。
そしてそこでは誰もが「許されざる者」なのだというリアルな視点を
示してくれたという意味で、この映画はアカデミー作品賞に値するのだと思う。

ERテレフォンクリニックウェブサイト: http://homepage2.nifty.com/er-telclinic

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コメント

名作です。

若かりし頃、南欧系麺類西部劇で名を売ったイーストウッドならではの懺悔作でもありましょう。

でも、南欧系も面白かった。(のは確か)

好きなのは「続・夕日のガンマン」です。
原題は「The good,the bad and the ugly」
もちろん、the good はイーストウッドであるわけですが。題名で登場人物をここまで性格付けしてしまっていいのか・・・。

笑うために見る映画です。

投稿: ママサン | 2010年5月20日 (木) 18時46分

ママサン

「許されざる者」は最初コメディなのかと思っっちゃいました。(笑)このあたりの作り方はうまいですよね。さすがに南欧の麺で鍛えられただけのことはある。「続・・」のタイトルにも笑っちゃいますね。ウケる理由が分かりました^^ 

投稿: pinoko | 2010年5月20日 (木) 19時17分

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