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2010年9月30日 (木)

水辺の『新しい人生のはじめかた』

第五水曜日はレッスンが休みなのだけど
午後からは仕事があるので、午前中ギンレイで
『新しい人生のはじめかた』1本だけを観ることにする。
日曜のレッスン中に、右太ももの半腱様筋という筋肉を痛めてしまい、
今週の午前中は、毎日もっぱら鍼灸院で専属トレーナーに
マッサージとテーピングをしてもらっている。
日常生活にはさほど支障はないけど
テーピングのせいか、靴下を履いたりする動作が難しい。
でもせっかくの休みだし、この日を逃すとチャンスがないし
最近知ったカナル・カフェにも行ってみたいし、
つかの間の晴れ間だし、と条件は万全である。

『新しい人生のはじめかた』は
ダスティン・ホフマンとエマ・トンプソンという
名優二人による上質のドラマである。
娘の結婚式に出るためにロンドンにやってきた
失職寸前のCM作曲家ハーヴェイがホフマンの役どころだが、
再婚した妻と新しい夫が築いた家庭の中から幸せそうに
飛び立とうとする娘を目の当たりにして、結婚式にも居場所がない。
トンプソンが演ずるケイトは40代の独身女性。
老いた母が足かせになって、新しい出会いにも気後れしてしまう女性だ。
人恋しいハーヴェイと、半ば人生を諦めているケイトが出会って
交わす会話には、この年代ならではの味がある。
ケイトはいかにもイギリス人らしく、世の中をクールに見ている。
自分の母親が、何かと娘である自分のことを心配するのは
「退屈だからよ」と言いつつ、頻繁にかかってくる電話は無視できない。
「イギリス人は、もっとお高く留まっているのかと思った」というハーヴェイに
ケイトは、ダイアナが死んで変わったのだと説明する。
それまでは、昔の貴族がニコリともせずに威厳を保とうと
顎を緊張させて唇を固めていた(step up lips)名残があったのだ。
ケイトというにわか友達のおかげで、ハーヴェイは
娘の披露宴に出る勇気をもらい、父親である喜びを感じる。

そういうなんだかんだがあって、最終的には2人で
新しい人生を始める、というところに特別な目新しさはないが、
同世代の観客を意識した作りが心地よい。
肩の力を抜けば、いつでも新しいことに踏み出せるものなのだ。

観終わったらちょうど昼になっていたので、
飯田橋から歩いて1分のカナル・カフェへ。

http://www.canalcafe.jp/

お堀の向こうをJRがひっきりなしに行き交う。
初めてなので、セルフサービスのデッキを利用するが
秋の日差しは思ったより強くて、パラソルのない席だと汗ばむほどだ。
時々、水がパシャンっと音を立てるので、何かと思ったら鵜がいるのだった。

セルフの場合は、無線端末のようなのを貸してくれて、料理ができると
呼び出しが鳴って、自分で取りに行くようになっている。
これで風が爽やかで、もう少し涼しければ言うことなしである。
独りでタイ風グリーンカレーを食べていると
隣の女の子2人連れの会話が耳に入ってくる。
ひとりがキャバクラに体験入社した話をしている。

「きれいなドレス着たいなって思っのが動機。
水着タイムっていうのがあって、思いっきり(髪を)盛り上げてもらったら
みんな、水着の時は髪を下ろしているのよね。すっごく場違いだったなあ」
「キャバクラって変な人とかいないの?」
「全然。スタッフの人もみんな親切で感じよかった。でもシフトの日は
一応お客の電話番号渡されて、『今日は強制指名日なんで』とか
電話かけたりはするのよ」

どうやらキャバクラ娘は、うつ病で勤めていた会社を辞めたらしい。
「あ、それはうつ病だよって先生に言われた」と言っている。
さらに、もうひとりも、うつ病の診断で1ヶ月の休職中らしく、
「会社に属していると思うと中途半端で、なんかいや」とか言っている。
たしかに昨今「うつ病」は増えていて、しかも内容も変化していると言われる。
キャバクラに体験入社できる自発的エネルギーはあるのだが、
既存の何かに自分を合わせるエネルギーには乏しいのだろう。
そこが従来の病像と違うのかもしれない。
キャバクラ娘も、ふだんはあまり外に出たくないと言っていた。

社会全体が豊かになっているから、うつでもうつじゃなくても
降りるという選択肢は当たり前にある。
「○○銀行に総合職で入った子は、総合職なのに全然頭を使う仕事じゃない。
もうちょっと頭を使う仕事がしたいって辞めちゃった」
う~ん、おじさん企業で若い子が仕事をするのは、なかなか難しいだろうね。
どこでも異文化交流が要求されているのだけど、
それを意識できている旧世代は少ないだろうということは想像できる。
われわれの世代は、適応することが至上命題みたいなところがあったが
それは貧しさから抜け出すという大目的があったからで、
最初から豊かな世代は、「適応」なんて概念は端からないのかもしれない。
そこから話は、やりたい仕事の内容へと移り、仲間で協力して
どこそこのカフェみたいのならできるかも、という話になる。
経営担当、フロア担当と適材はいるみたいで
人間関係が不得意というわけでもなさそうである。
要は生かせる場があるかどうかという問題かもしれない。

『新しい人生のはじめかた』は、なにも中高年に限らないのだ。

ERテレフォンクリニックウェブサイト: http://homepage2.nifty.com/er-telclinic


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