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2011年5月13日 (金)

トピックの要件

ディペックスの報告書を作成し終わった後で、
トピックの抽出ということが議論になった。

「語り」の中からトピックを取り出すためには
ただインタビューを蓄積すればいいわけではなく、
ひとつひとつの事例の中でのインタビュアーの気づきを
早い段階で顕在化させながら、次のインタビューへ生かしていく
必要があることが改めて確認された。

ここでいうトピックとは、
「がん治療に関わる人たちが知りたがっていること、知らせたいこと」
というくらいのことだけれど、
その事例にしか見られない珍しい内容もトピックになり得るし
多くの事例に共通に見られる内容も、そうだと言える。
かといってどの事例にも共通することが
トピックと言えるかというと、そうでもないような気もする。
明らかにみんながすでに知っていることは、トピックにならない。

たとえば電話相談では、今まで聞いたこともないような事例が入ってくると、
まず受け止めて背景を考えるということを習慣的にやってきた。
典型的な例は、30年以上も前にティーンの母親からの
育児相談があったときだった。
そういうとき、相談を受けた相談員はすかさず
みんな(ほかの相談員)に向かってつぶやく。
「ねえねえ、今のお母さん19歳。お父さんは20歳なんだって」
まだ新聞にもそういう動き(出産の低年齢化)は報じられていない
時代だったから、これは衝撃的だった。
う~ん、そこまできたか。
もっとも江戸時代なら、こんなのは別にめずらしくなかっただろう。
これをただの特異なケースと捉えるか、兆しと捉えるかは、
ほんとうはもう少し時間が経ってみないと分からないのだが、
たいていの場合、そういうのは氷山の一角で、
水面下ですでには同様の事態が進行している。
社会は常に変化しており、それを示す指標がトピックなのである。

一方でやたらに入る同じ話、というのもトピックになり得る。
たとえば30年前には「ミルクを飲まない」というのがそれだった。
これは生まれて2ヶ月目くらいの赤ちゃんによく見られる現象で
急にそれまで飲んでいた量を飲まなくなる。
母乳だとなかなか気づかないのだが、ミルクは量が一目瞭然なので
親は何か異変が起きているのではないか、と
心配になって相談をしてくるのだ。
当時は小児科医でも、こういう事実はつかんでいなかったから、
学会発表まですることになった。

今私がしている仕事で言えば、「熱が出たので受診したい」
という相談も、これと同様のケースだろう。
発熱→受診というパターンは、小児科医にとってはめずらしくなく
医師にとっての「なぜ」は、発熱の原因を探すことだから、
これまではそれ以外のことはほとんど注目されずに、
そこで話が終わってしまっていた。

でも、相談という相手仕様のワンクッションを置いてみると、
別の「なぜ」、つまり相談者にとっての問題が見えてくる。
相談者は、一見発熱→受診というワンパターンの行動を
とっているように見えるが、必ずしもそれを唯一の解決法と
考えているいうわけではない、ということである。
「顧客が欲しいのはドリルじゃない。穴なんだ」
と言ったレビット教授にならっていえば、
「相談者が欲しいのは診療じゃない。病気への対処法だ」ということである。
つまりそこでは受診以外にできることという、
相談者にとって解決されるべき問題は、
いまだ未解決のままだということであり、
トピックとは未解決問題でもあるということだ。

トピックをとり出す上で、インタビュー(コミュニケーション)能力が
問われることは間違いないが、それだけではダメで、
ひとつひとつの事例を反省的に分析する作業が不可欠である。
戻っては進み、進んでは戻るということを繰り返しているうちに
見えてくることこそが重要なトピックなのである。
高速道路を一気に行くより、一般道をジグザグに進む方が
多彩な景色を楽しめて、旅の醍醐味を味わえるというのと
似ているかもしれない。

ERテレフォンクリニックウェブサイト: http://homepage2.nifty.com/er-telclinic

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