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2011年10月18日 (火)

不確実な害より確実な害を選ぶ厚労大臣の不思議

ポリオの不活化ワクチン導入で、ちょっとした騒ぎになっている。

そもそもはポリオの生ワクチンで感染者が出たことから
一部の小児科医が個人輸入で不活化ワクチンの接種を
始めたのがきっかけである。
50年前は生ワクチンによってポリオの流行を阻止できたが
その後生ワクチンによるポリオの発症も起きた。
小児科医の多くは毎回「ポリオになりませんように」と
祈るような気持ちで生ワクチンを接種してきたそうである。
にもかかわらず、国はなかなか不活化ワクチンの導入をおこなわなかった。
で、神奈川県が不活化ワクチンの導入に踏み切ったのだ。

以下はNHKニュースのコピーである
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111018/t10013345871000.html
神奈川県 ポリオワクチン輸入へ
10月18日 17時4分

手足がまひするなどの後遺症が出る、ポリオを予防するワクチンについて、
神奈川県は、海外で使われている、安全性の高いとされるワクチンを
独自に輸入し、国に先立って希望者に接種することを決めました。
ポリオのワクチンは、7歳までに2回接種することが法律で定められていますが、
現在、国内では毒性を弱めたウイルスを含む「生(なま)ワクチン」が
使われているため、ごくまれにポリオに感染することがあり、
保護者の間で接種を控える動きが広がっています。
このため厚生労働省は、来年度の末には、毒性を完全になくし、
より安全性が高いとされる「不活化ワクチン」に切り替える計画です。
しかし、神奈川県は、「国の対応は遅すぎる」として、
「不活化ワクチン」を国外から独自に輸入し、国に先立って希望者に
接種することを決めました。18日開かれた市町村への説明会の中で、
県の担当者は、「不活化ワクチン」は県立病院の医師が
個人輸入する形をとり、できるだけ早く、県の保健福祉事務所で
週1回程度、予約した希望者に接種することを伝えました。
その一方で、まだ国内で承認されていないため、
副作用が出ても公的な補償は受けられないことや、
1回当たり5000円から6000円程度を保護者に
負担してもらうことなどを説明しました。
独自に不活化ワクチンの導入を決めたことについて、
黒岩知事は「国がやらないので、緊急避難的に県が不活化ワクチン
という選択肢を設けた」と述べました。
これについて、小宮山厚生労働大臣は、18日の閣議後の記者会見で、
「不活化ワクチンの導入は、生ワクチンの予防接種を控える動きを助長し、
ポリオの免疫を持たない人が増加するおそれがある」と指摘したうえで、
「県が主導して、日本ではまだ承認されていない不活化ワクチンの
接種を進めると、健康被害が生じた際に公的な補償が行われず、
望ましくない」と、神奈川県の対応を批判しました。
厚生労働省は来年度の末には不活化ワクチンを導入する計画で、
それまでは生ワクチンを接種するよう、自治体を通じて呼びかけています。

コピーここまで

不可解なのは厚労大臣のコメントである。
海外で多く使われている不活化ワクチンの健康被害は
今の所報告されていない。
一方で生ワクチンによるポリオの発症は100万人に1.4人である。
この確率は一見非常に小さいように見えるが、
当たった人にとっては100%である。
そのことが分かっているのに、補償がおこなわれないから
不活化を勧めないというのは論理が転倒している。
速やかに不活化の補償を法制化すればいいだけのことである。
それができないなら、
「すみません、お金がないので被害が出ても補償ができません。
でも、健康被害が出ないワクチンを打つことは制限しません。
免疫をつけることを優先したいので、どちらのワクチンを
選択してもいいですから、ワクチンはとにかく打ってください」
と言えばいいのである。

ここでは
健康被害の報告がないのと健康被害が生じているものとでは
(世界の大勢はすでに不活化ワクチンを導入し、被害が出ていない)
健康被害が生じるものを選択する、という論理が採用されている。
何を言っているんだろうか。
自分たちの役割がまるで分かっていないとしか言いようがない。
「放射能つけちゃうぞ」大臣より、よほど質が悪い。

小児科医の中には、
確率が小さい、ポリオの流行を阻止する効率が高い
という理由で生ワクの接種を推進している人も結構いる。
中国でポリオが流行している以上、効率よく免疫をつけるには
生ワクじゃないとダメ、というもっともらしい理由にまじって
法律で補償されなければ自分の身も危うい、という本音も聞こえてくる。
流行が阻止できれば、ひとりやふたりの健康被害は
やむを得ないということらしい。
病気だけ見て人間を見ないと、こういう発想になるのだろう。
個々の人間を大事にできない時代遅れのお医者さんは
速やかに表舞台から退席していただくしかない。

ERテレフォンクリニックウェブサイト: http://homepage2.nifty.com/er-telclinic

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コメント

この問題、
さまざまな立場が交錯します。
行政の立場、
知事の立場、
医師の立場、

でも、
春の定期接種で生ワクチンを拒んだ、この秋の接種で生ワクチンを拒んだ、母親の立場に誰が立つのか。
赤ちゃんの立場に、誰が立つのか。

大人にはそれぞれの都合はあるのでしょうが、
全部忘れて、
ワクチンを受ける赤ちゃんの立場になって欲しい。
それに一番近いのは、誰の判断なのか、ということです。

投稿: ママサン | 2011年10月20日 (木) 19時19分

ママサン

予防接種による健康被害を
0%にしろとは言いません。
でも受ける側が被害を覚悟しなければ
ならない以上、打つのか打たないのか
何を打つのか、といったことは
受ける側が判断すべきだし
その判断は尊重されるべきだと思います。
補償されたって被害が消えるわけじゃなし。
なんでもカネで片を付けられる
と思っているらしいところが
気に食わない。

投稿: pinoko | 2011年10月20日 (木) 22時00分

>受ける側が判断すべき

そのためには、学者、専門家が本来の役割を果たし、行政が正確な情報を受ける側に提示するという根本がなければならない。

米国にしろ、フランスにしろ、ネットで即座に副反応被害を受ける側が知ることができたりする。
情報を開示する。

その根本が、日本の学者・専門家、行政にはできていないのが最大の問題だと思っています。

投稿: ママサン | 2011年10月21日 (金) 21時24分

>学者、専門家が本来の役割を果たし、行政が正確な情報を受ける側に提示するという根本がなければならない。

この本来の役割というところで、
学者も専門家も行政も、ちょっと
行き詰っているように見えます。
でも、グリーバル化が進んで
情報の入手ということでの彼らの
優位性というのは、すでに危ういわけ
ですから、いろいろな形で揺さぶりを
かけていくのがいいのかもしれません。

投稿: pinoko | 2011年10月22日 (土) 08時24分

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