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2014年5月 6日 (火)

『プリズナーズ』・・・人を動かすもの

昨今の海外TVドラマは予算が大幅に増額されて絶好調だそうである。
たしかに『メンタリスト』とか『スーツ』、『ニュースルーム』など
新シーズンが楽しみな番組は多い。
映画評論家の町山さんによれば、TVドラマは
売り先がたくさんあり利益が見込めるので、
今や映画をしのぐほどの勢いなのだとか。
ただアメリカ発の犯罪ドラマは、私にはどうも話の筋立てが単純すぎ
人間描写も表層的すぎるようで、最近はほとんど見なくなった。
おどろおどろしさと科学的な装いだけで観客を引き付けるのは
もはや限界にきているのだろう。

『プリズナーズ』という映画も、タイトルからは似たようなTVドラマの
延長戦上にあるのではという印象が強かった。
しかしこの配役はなんとも気になる。
ヒュー・ジャックマンが主演?、ジェイク・ギレンホールが共演?、
ポール・ダノも出ているって?
で、混んでいる連休に出かけたのだ。
周囲は思いっきり『アナと雪の女王』観客ばかりである。

筋は誘拐された娘を取り戻そうとする父親の物語である。
娘のアナを誘拐された父親のケラー(ヒュー・ジャックマン)が
娘を思うあまり、暴走する。
これが実に怖い。
それは彼が暴走を制御できないからではなく
理由があれば制御しなくてもよいと考えているらしい
ことが伝わってくるからだ。
彼のアクション俳優としての凄味の根っこは
ここにあったのかと、妙に納得してしまうほどだ。
そうした娘思いのケラーの感情の暴走が
いまひとつ腑に落ちないでいると、後半
彼が抱えてきた心の闇が次第に明らかになってくる。

誘拐事件を担当する刑事ロキはジェイク・ギレンホールだ。
知的で抑制的に見える彼も、実は少年院上がりである。
この経歴はむしろ非常に意外な感じがするほどだが
前半にはなかったチックのような目のしばたきは、
きっと何かがきっかけで始まっているはずだ。
もう一回観ないといけない。

アナと一緒に誘拐された黒人の娘ジョイの
父親フランクリン(テレンス・ハワード)と
母ナンシー(ヴィオラ・デイビス)は
ケラー一家と感謝祭の夕食を共にするほど仲が良い。
彼らが黒人であることが、この映画に奥行きを持たせている。

『ヘルプ~心をつなぐストーリー~』や『大統領の執事の涙』
『それでも夜は明ける』などを持ち出すまでもなく、
抑圧されてきた黒人の歴史を考えれば、
自分たちの祖先が被ったような理不尽な暴力に
歯止めがかけられるのは、彼らしかいないのではないか
と思わずにはいられないが、ここではそうはならない。
もちろんこれは我々の身勝手な期待にすぎないのだが、
まるで自分たちが被った暴力を行動様式として
学習してしまったかのような彼らの振る舞いは、
私たちが他者におこなったことは
そのまま私たちに返ってくるのだと言わんばかりである。

アナを誘拐したとケラーに睨まれて拷問されるアレックス(ポール・ダノ)は
知的障害があると思われているが、両親を亡くした過去の事故が
原因で心を閉ざしてしまったらしいことが後になって明らかになる。
ポール・ダノという俳優は『それでも夜は明ける』で、
ごく普通の人間に潜む狂気を演じて非常に印象的だった。

そしてアレックスの伯母のホリー(メリッサ・レオ)も過去に
囚われて、そこから抜け出せなかった一人として描かれる。

タイトルのプリズナーとは実際に囚われた人(アナ、ジョイ、アレックス、
そして最後にはケラーも)のことだろうが、同時に過去に囚われて
そこから抜け出せていない人をも意味している。
人は常に何かに囚われているものだが
何に囚われているかは通常無意識に沈み込んでいるから
当人には感知できない。
感知できていれば囚われなくて済むし
その影響力を自分で回避することもできる。
感知できないからこそ、私たちはそれに動かされてしまうのだ。
ケラーは信心深い人間で、常に聖書の祈りの言葉を口にする。
しかしそれによって観客は彼の行動に対して強烈な違和感を感じる。
いたるところに宗教的な暗喩(刑事の名前や誘拐犯が飼っていた蛇など?)が
出てくるので、一見宗教的なテーマが潜んでいるように見えるが
ケラーの言行の不一致に違和感を感じさせることで、
私にはむしろこの映画は宗教の相対化、
あるいは宗教からの脱皮を促そうとしていると感じられた。
神も人の無意識の産物だと考えれば、
ジェイク・ギレンホールが述べているように
これはまさしく無意識についての映画であろう。

2010年アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『灼熱の魂』で
厚みのある人間ドラマを見せてくれたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は
ここでも2時間半という長丁場に隙を見せない。

TVの犯罪ドラマがつまらないのは、
ひょっとして時間が足りないからなのかも
などと考えてしまった(笑)

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