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2014年9月26日 (金)

静的な医療から動的な医療へ

ツイッターでは、情報はまるで川の流のようにどんどん流れる。
ただ、川では引っかかるのはたいていの場合ゴミだが、
ツイッターで引っかかるのは自分だ。
流している自分と引っかかる自分。
ツイッターは自分を発見する場でもある。

変化を不安に思う傾向が人間にあるとしたら、
それは、人間自体が常に変化しているからではないだろうか。
福岡伸一さんんも言っているように、昨日の自分と今日の自分は
実は別物なのだけど、だからこそ人間は
それをあまり認めたくないのかもしれない。
同一性を継続しながらつつがなく過ごせれば安心だしー。

このところ仕事でもボランティアでも
こうした医療者の静的傾向が少し気になっているので、
#8000の全体研修(実践コース)も終わったことだし
次の仕事への頭の整理もかねて、
そのことについて書いておこうと思う。

#8000の全体研修は今年で4年目。
電話相談の経験がなくても、聞きかじりの知識だけで
それらしい研修用テキストやプログラムを作成できてしまう
医療者の能力には、皮肉でなく心底感服している。
地頭がいいとはこういうことなのだろうと思う。

もちろん彼らは地頭がいいだけでなく、
医療者としてのプライドも強固だから、
研修はどうしてもある種の権威関係を後ろ盾に進む。

何回か一緒に仕事をして、こうした彼らの性癖にはだいぶ慣れたが、
こういうやり方で習得した成果が、果たして実際の相談者との
関係の中で、どう生かされているかは気になる所ではある。

「一緒に考える」とか「対等の関係」などと言葉で言うのは簡単だが
それがどういうことなのか、お題目に終わらず
果たしてちゃんと実務で表現できているのだろうか。
そうしたことも含めて学ばせるのが本来の研修ではないかとも思う。


当初#8000の相談員の研修に関心が持たれなかったのは
医療の分野では電話相談というものを全く理解できていなかったからだ。

そもそも20年以上前に初めて電話相談の現場からの報告を学会発表したとき
医療者(主に医師)から返ってきた反応は、
「自分たち(医療)の領域を侵食するなんてけしからん」というものだった。

ほんとはその時点でもうちょっとそうした反応を吟味すべきだったのだが、
こちらにとってあまりにも突拍子もない反応だったので、
戸惑いつつ意味を考えていたら10年が過ぎてしまったのである。

それから10年。

小児科開業医の時間外電話相談を事業化するにあたって
少しは医療者も、電話相談について理解を深めてくれたかしらと
淡い期待を抱いて臨んだが、これが大いに甘かった。
それまでも何回か電話相談の考え方や
そこから見える問題について発信し、論文に書いたので、
自分では相当説明を尽くしたつもりでいた。
でも実は肝心なことは何も伝わっていなかったのだ。

どこで行き違ったのだろう。

次の10年はそればかり考えて
おかげで入院する羽目にもなったが
厚労省の研究成果を論文にまとめることもできたから
この10年は無駄ではなかったといえる。

この成果は
『小児救急電話相談ー患者との協働を学ぶ方法ー』
小児保健研究Vol.72 No.5(2013.9)
にまとめた。

端的に言えば

医療者は、電話相談を医療現場における「質疑応答」と同じと理解しており
そこでは相談者のいる場所や状況、電話というツールの特性については
ほとんど注意が払われてこなかった。
まあ、医療現場における患者のニーズは常に単一だという思い込みが
患者について関心を持つ必要を感じさせなかったのかもしれない。
だから#8000を自分を生かす絶好の分野とばかりに飛びついた。

電話相談が単なる「医療についての質疑応答」であれば、
答えを提供する専門家としての医療者の優位性と存在価値は
揺らがないし、自分たちは変わる必要もない。
裏を返せば、それほどまでに小児科医は
自己の優位性や存在価値を保証してくれるものを必要としていたのだ。
その後、#8000が医師から看護師へとバトンタッチされた
経緯については以前にも書いたので割愛するが、
相手のニーズについて考える習慣がないのは看護師も同様だった。

もっとも今に至っても、
小児救急電話相談は特殊な分野だから、
電話相談特有の技術さえ習得すれば、ちゃんとできるようになるはず、
と考えているらしい医療者はしばしば見かける。

今回の研修でも、
相談者を自分の土俵に引き込み、パターン化した相談で
主導権を持とうとしたり、指示的、指導的な傾向は相変わらず見られたが、
これは相談員としての技術が未熟というより、
「合意形成」という電話相談の本質が理解できていないためだろう

相談員自身が感じとった相談者像にしたがって何かを判断し
かつリスクも共有するのは、電話の不確定さを考えると
相当の重圧があるはずである。
その意味では、確実な正解を頼りにできる医療現場と
不確実の極みのような相談現場は、180度異なるといってもよい。
つまり相談員として習得すべきは単なる技術ではなく、
医療者と相談員という役割をどう使い分けるかということなのだ。

相談員である看護師が長年の習慣から、
バックにいる医師の方針に逆らえず、
そのために電話の中でも相手に応じて柔軟に振る舞えない、
というのは分からなくはないが、
医師の指示を自分なりにかみ砕き、そこから相談者にとっての
最善を提供するということが、現実の医療現場で
おこなわれていないために、電話の中でも難しいとしたら、
それは看護師の問題というより医療そのものが内包する
解決すべき問題と考えた方がいいだろう。

でも、各都道府県で#8000が実施されるようになったおかげで
医療はいよいよ新しいフェーズに入ってきた予感がする。

電話相談を紹介していた初期の頃は、
主にそのコミュニケーションの方法を医療に役立てることを目指した。
それほど医療におけるコミュニケーションはひどかったのだ。
今でもまだ、かつて論文に書いた「これで大丈夫ですか」とか
「ほかに何か聞きたいことはありますか」といったセリフを
一つ覚えのように唱える医療者がいて、苦笑してしまうが
これも地頭のよい彼らの静的な傾向を表しているといえる。

だから次のフェーズへの移行も、きっとうまくいく、と期待しよう。
それは医療者と被医療者の関係性の見直し、
つまり医療を何かスタティック(静的)なものと捉えて
そこに患者を当てはめれば済むと考えるのではなく
患者に応じて、いかに医療を活用するか、
それを電話相談から学んでもらうのだ。

今までそれができてこなかったのは、(日本の)医療が人間ではなく
症状しか見てこなかったからかもしれない。
電話相談を導入するということは、医療における正解とは何かを
考え直すということで、それが今始まろうとしている。

実は#8000の本来の研修課題はここにあるのだが、
研修を実施する側も受ける側も、まだそこには気づいていない。

なので、こういう話は総論だけの全体研修ではなく
各論の場で少しずつ伝えていきたい。
地域の声を捉え、その地域独自の医療を構築することが
#8000の目標になるはずだ。

大阪、北海道に続いて、次は#8000福岡で。

ERテレフォンクリニックウェブサイト: http://homepage2.nifty.com/er-telclinic

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