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2015年5月10日 (日)

#8000に欠けていること

小児救急電話相談(#8000)は2002年、
私が小児科開業医の時間外電話相談事業を立ち上げたのと、
ほぼ同時期にスタートし、瞬く間に47都道府県に導入された。
電話での「相談」ならいつも受けているから難しいことはない、
という誤解だけでなく、日本人特有の横並び意識も促進要因になった。

そこに欠けていたのは、医療者がおこなっている「相談」と
電話でおこなわれている「相談」は
ひょっとして違うかもしれない、という発想だった。

医療者(医師や看護師)が考える「相談」の多くは「質疑応答」を指し
内容は病気やけが、事故など医師の守備範囲に限定されている。
彼らにとっては通常の診療現場に持ち込まれる懸案事項に
答えを出すことが「相談を受ける」ことにほかならない。
だから専門知識さえあれば外来をこなしながらの片手間でも
電話相談は十分可能と考えたのが最初の誤算。

で、実際にやってみたら診療現場よりはるかに広範囲な内容が
入ってきてしまい、お手上げ状態になった。
さらに予想したほど重大な(医師でなければダメな)案件は入らない。
これが2番目の誤算。

多くの自治体が相談員を医師から看護師にスイッチしたのは
医師でなければダメというわけじゃない、という理由に加えて
医師には生活支援ができないことも分かったからだ。
もちろん、できる医師もいないわけではないが、
医師にできるのは何の病気か、治療法は何かという診断で、
(もちろんこれが極めて高度で重要なことであることは言うまでもない)
病気でもなく、じゃあ個々の生活に合わせてどう対処するのがいいか
というアドバイスとなると、おおむね不得手なのだ。
小児科医だからって実際に子育て経験があるわけじゃないし。

医療者は通常医療現場で「相談」を受けているから
相談案件は医療に関係あることにほぼ限定されている。
病院に、「どこへ行ったら金が借りられるか」なんて問い合わせは入らない。
かかった医療に払うお金をどう算段するか、という相談ならあるだろうが
そういう相談は医師ではなくソーシャルワーカーが受けることになっている。
つまり相談する側のニーズは医療関係にほぼ限定されている。

だから相手のニーズは何か、を探り、考える習慣がない。
これが3番目の誤算。
多くの#8000相談員が「子育て相談が多い」とがっかりするのは
相手のニーズに応えるのが相談員ではなく
相談員のニーズ(意気込み)を満足させてくれるのが
「相談」だと思っているからだ。

私も所属している「小児救急の社会的サポートを考える委員会」では
毎年#8000相談員の研修を行っているし、それとは別に
私自身が個別に大阪、北海道、福岡の#8000で研修をおこなって見えてきたのは
「#8000の目的は何か」と「なぜ#8000の相談員研修が必要か」が
実は医療者自身に正確に理解されていないという実態だった。

その原因は上記に述べたとおりだが、もうひとつ付け加えるなら
医療制度に囲われている集団(医療者)は、
制度の側からの要求に、何の疑問も持たずに
従ってしまう習性があるからだろう。

だから今回委員会で研修テキストを増刷するというので
上記の項目を付け加えてもらうよう要望し
原案を作成して委員会に提出したのでここにも掲載しておく。

私が「#8000の目的」を考えると以下のようになる。
厚労省のHPの内容を、もう少し厳密に分かりやすく、
現実に即した内容に書き換えると、こうなるはずである。

「#8000の目的は、相談者である保護者の求めに対し、
相談員である医療者が、電話における言語理解の限界を踏まえた上で、
聴き方や応答の技術を駆使して相談者の生活に合った結論を
見出していくことにあります」

「なぜ#8000の研修が必要なのか」もあるのだけど長くなるので省略。
機会があったらどこかに載せられるといいな。

ERテレフォンクリニックウェブサイト: http://homepage2.nifty.com/er-telclinic

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