2010年11月20日 (土)

マッサージの効用

ようやく#8000の相談評価報告書を書き終わる。
大変な作業だったが、いろいろと興味深い事実も分かって面白かった。
最も基本的なところでは、電話相談の個別性についての理解不足が目立つ。
一般論や確率で話をしない(できない)ところが電話相談の難しさでもあるが
そこはほとんど理解されていないので、いきおい症状の話ばかりになる。
個別性とは環境との関係性でもあるから、これが現在の専門家教育から
抜け落ちている部分でもあると考えると分かりやすい。
ろくな研修もなく電話相談に従事している看護師さんには同情するが、
自分たちの日頃のあり方に何の疑問も持たずに、
できるつもりで関わってしまう、というところに、
専門家が持っている危うさのようなものも感じる。
必要なのは電話相談員としての研修というより、
医療の専門家としてのあり方についての見直しなのだろう。

バレエで痛めた筋肉のケアにマッサージに通っていると
結局のところマッサージというのも、
自分の身体と環境との関係を理解する機会なのだと思い至る。
痛いはずの箇所をマッサージしてもらっているうちに
そうじゃないところも痛いことが分かってくる、というのも不思議だ。
まるで「黙ってちゃ分かんないでしょ。言いたいことがあったらちゃんと言いなさい」
と言われて、おとなしかった子が、おずおずと話し出すみたいな感じだ。

どうして天気のいい日に頭痛が出るのか、
どうして雨が近いと腰の調子が微妙にアブナクなるのか
ということを知りたいなあと思って調べていたら
「日本生気象学会」というのがあると分かり、初めて参加してみた。
新宿の文化女子大で開催されるのだという。
この大学がこの通りにあることは知っていたが
(新宿にあるのに住所が渋谷区とは知らなかった)
足を踏み入れるのは初めて。

15階の教室の一室を使ったこじんまりとした学会だったが
発表者は若手が多いらしく、それに対して年長者から質問や指摘が飛ぶ。
本来学会というのはこういうものなのだろう。
内容は日常に関わることが多い。
たとえば
「乳児における1日の水分出納」
「末梢性発汗機構の反応性の性差と季節変動」
「適用方法の異なる2種類の蒸気温熱シートによる月経痛の症状緩和効果の差異」
「人工炭酸泉全身浴がからだの柔軟性を促進させる可能性」
などなど。

どれも環境と生体との関係を探る研究で、領域を限定していないから
「アスファルトと熱中症の関係」などというのもあれば、
「寒冷ストレスによるラットの血中ノルアドレナリン量の変化」
なんていうのもあって、虫の目と鳥の目と両方が必要みたいだ。
関係性を測る手法は確立されていないだろうから(と思う)
さまざまな手法を、いろいろ組み合わせて試行している感じだが
それでもかなりのところまで明らかになってきている。
日常に立脚しているという点で、なかなか親しみやすい研究もある。
「やっぱり炭酸泉はいいのか」とか
「温熱シートは痛みに効くのね」とか
ふだんの生活に即役立つのも嬉しい。

いつだったか外来小児科学会の調査検討委員会で
予防接種後の発熱割合を調べるのに
接種後の発熱の訴え件数から統計的に割り出す
というアイデアが披露されたことがあって、思わず
「予防接種と感染症の発熱は区別できるのか」
と質問してしまったことがあった。
副反応としての発熱割合がいかに少ないかということより、
何による発熱か、が分かる方が日常的には
ずっと役立つような気がするが、日常から離れれば離れるほど学問的、
というような偏見がまだあるのかもしれない。
医療者の意識もこの辺から変えていかなくてはならないのだろう。

ERテレフォンクリニックウェブサイト: http://homepage2.nifty.com/er-telclinic

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2010年7月22日 (木)

とうとう日傘を買う

土日は「消費生活アドバイザー」の更新研修で、代々木のオリンピックセンターへ。
代々木公園駅を降りてからセンターまでの、公園脇の通りが暑くていやだ。
更新研修がおこなわれる毎年この時期は、土砂降りの雨か、
くそ暑いかのどちらかなのだが、今年は尋常じゃない暑さの方なので、
さすがの私も日傘を買う決心をする。
紫外線を吸収するから、という理由で黒い日傘をさしている人を
見かけるが、あれだと頭の上にホッカイロを乗せているみたいで、
私には耐えられないので、白くてちょっとフリルがついているのにする。
雨でもないのに傘をさすというのは、邪魔臭くて何となく納得がいかないが
雨とは違うもの(日差し)が降ってくる、と思えば同じことだと思いなおす。
で、日傘にサングラスで歩いてみたら、いくらかしのげる感じがして
なんとか倒れずに会場まで行き着いた。

土曜日の講師は、野田幸雄さんという元(?)日経新聞社会部記者で
タイトルは『消費生活アドバイザーに求められる視点』
企業と消費者が対立関係にあった30年前、企業を変えなければと
生活者発想を企業に送りこむために作られた資格が消費生活アドバイザーである。
私が生みの親です、と言うのを聞いて、へえー、そうだったんだと驚く。
私は第4期生だけど、そんな話は聞いたことがなかった。
昔のことなので忘れているのかもしれない。
でも、この資格に日経新聞が絡んでいることは知っていた。
ひとりの記者さんの発想が、こんなに大きなシステムになったのか
と思うと、ちょっと感慨深い。
アドバイザーも今では12000人にまでなり、組織の消費者部門だけでなく
家裁の調停員など、さまざまなところで資格を持った人が活躍している。
ここ数年は、女性より男性の合格者が多い逆転現象が起きているのだとか。
そのことと、トヨタのブレーキ問題や花王のエコナなど、
さまざまな企業の不祥事は、何か関係があるのではないか
というのが、今回の彼の問題提起である。
組織では力関係がものを言うから、たとえニュートラルなアドバイザーといえども
なかなか思うような働きはできないだろうけど、男性が多くなることによって
かえって組織の論理が強固になってしまう、ということはあるのかもしれない。
トヨタはアドバイザー雇用がもっとも多い企業だそうだが、
お粗末な対応をしておいて、「『消費者目線で』というのはなんなんだ」
というのが彼の嘆きであった。

翌日は、九州大学医学系大学院教授の尾形裕也さんによる
『医療制度構造改革の動向』
この十年の医療制度構造改革の概要をおさらいし、
どこが問題で、これから何がおこなわれようとしているかについて。
この先生の講義はたしか2回目だが、毎回よく整理されていて分かりやすい。
OECDによると、日本の医療の問題は
Lack of differentiation and standardization
(機能分化と標準化の欠如)だそうである。

病院と診療所といった医療機関による機能分化がおこなわれておらず
かつ、医療の標準化もなされていない、というのは日常的にもよく経験する。
大きな病気でもなければ、近場の診療所で済むはずだが
なかなかそうならないのは、医療の質が玉石混交だからである。
これは診療所と病院の差というより、医療者の個人差のように思える。
患者はなかなかいい先生にめぐり合えないので、
たいしたことがなくても、とりあえず病院へ行く。
たいしたことがあったときのために、保険をかけざるを得ないのだ。
建物の構えとか、「大学病院」というブランド力に
かすかな望みを託して、ということもあるかもしれない。
病院の医師なら(勤務医だし)、金のために余計なことをする
ことはないだろうという推測も働いているかもしれない。

日本の医療が資本集約的=労働節約的である、ことが
医療崩壊の要因のひとつ、というのが尾形先生の説明だが
このことと、機能分化の欠如とは、どこかでつながっている感じがする。
おそらく標準化の欠如も関連しているだろう。
医療は本来労働集約的(人手が必要)なサービスだが
日本ではやたらに病床数が多く、そのために常に人手が足りない。
病床数が多すぎるので、諸外国に比べると、
病床100床あたりの医師数は1/4から1/6である。
これをもって医師が足りないという向きもあるが、
病床が多すぎる、と考えた方が合理的ではないだろうか。
前提を間違えると対策は大幅に的外れになるはずである。

たしかこの先生の前回の講義では、日本の病院経営が苦しいのは
過剰な設備投資に原因があると聞いた記憶があるが、
何かにつけてハード優先になるのは、日本が技術大国だからというより
ハードに頼れば、つまり医療の質ではなく、患者の数をこなせば
経営が成り立ってしまうような医療制度になっているからだろう。

そこから生まれたのがメディカル・ツーリズムだとしたら、
ひょうたんからコマ、とは笑っていられないかも
と思えたのも、この研修講座の成果だった。

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